回顧
男は以前、行きつけの飲み屋で出会った女に思い馳せていた。ほんの少しだけ、言葉を交わしただけだった。
だが、男にとって彼女と過ごしたひとときは楽しいもので、忘れる事はできなかった。
また会いたい。
彼女は誰なのだろう?
名前すらも知らないが、姿だけは鮮明に思い出せる。
黒のタイトスカートから伸びる脚が魅力的だった。細くもなく、太くもない、引き締まった長い脚から目が離せなかった。
血を啜ったかのように毒々しい真っ赤な唇、鋭い目つき。獲物を狙う狩人のようだった。
最初はどこか近寄り難く、恐怖すら抱いたものだが、言葉を交わしてみれば笑顔も見せ、ギャップを感じたものだ。好ましさもあったが、彼女の姿にもっと別の欲望が芽生えていたのを、再び出会うまで気付かなかった。
店で懇意にしているスタッフから、ようやく彼女の名前と働いているお店を知る事ができた。男は念願叶って彼女に会いに行く事にした。
店のオープン時間とともに男は入った。彼女がいた。店内にはお客は居らず、二人きりだ。
「ようやくお会いできました!」
あの日に出会った彼女の姿は変わらなかった。
男は、当然自分の事など忘れているものだと思っていたが、彼女は薄らと記憶にあるらしい。暫く言葉を交わしていく内、男は、彼女がずっと立ちっぱなしである事が気になっていた。
「座らないのですか?」
そう聞くと、彼女の雰囲気が変わったように感じた。真っ赤な唇をすこし歪めて微笑みながら、彼女は男の目をじいっと見つめる。男はどきりとして、息を飲んだ。
「そうね、少し疲れたかも。ちょうどいい椅子はないかしら」
「僕が、椅子になります」思わず、男は口にしていた。どうした事だろう。慌てて、冗談です、と言おうとしたが、彼女は莞爾として笑った。
「それじゃあ、床に手をついて。四つん這いになりなさい」
まあ、そんな事があったとかないとか。
前のブログ記事を発掘。これ、若干の脚色はあれど実話なの~!すごいよね。
たった一度だけ、一言二言交わしただけなのに、また会いたくて探してくれた熱意が本当に嬉しいし、可愛らしい。
彼とは未だに交流が続いているし、定期的に会いに来てくれるので、こういうのを運命的な出会いと言って過言ではない。
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